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医療情報の提供事業

書籍:認知症高齢者への口腔ケア
   ■はじめに
   ■認知症の症状別口腔ケアのアプローチ方法 (1) (2) (3) 

 


2)非認知障害によるもの
  うつ病(抑うつ症)による
  精神的・精神運動的・身体的症状の組み合わさった抑うつ症候群で、抑うつ気分、悲哀感などの感情障害、思考制止などの思考障害、意欲低下、睡眠障害、抑うつ状態の日内変動などを主症状とする情動性精神障害があります3)。

行動の問題:
・口腔ケアを拒否します
  ・口腔ケアの動作が遅く、長時間かかります
  ・非常に無気力で、自分から口腔ケアを行おうとしなくなります
対 応:
  ・その人が口腔ケアを行えるような、受け入れられる言葉や身振りなど、促しとなるきっかけを作ります
  ・自立している人たちと一緒に口腔ケアを行えるような環境を作り、他の人の行動を見て刺激を受けるようにしてみます
  ・うつ状態が重くてどうしても口腔ケアを自分で行えない場合には、全てを介助で行います
  ・薬によってうつ状態が改善する場合もあるので、主治医に相談します

 また高齢者では、うつ病(抑うつ症)が、「周囲の状況が理解できないため、無関心」「話し方や動作が遅く、集中力障害」などを呈し、認知症と間違えられることがあります。これは、仮性認知症とよばれています。

  幻覚による
  外界には実在しないものが、知覚されたかのように感じられることをいいます。幻覚は、出現する知覚領域に従って、幻視、幻聴、幻嗅、幻味、幻触、体感幻覚などに分類されます。音、響き、光などの幻覚は、要素幻覚とよばれます3)。

行動の問題:
  ・幻覚のために口腔ケアに集中できなくなります
  ・まわりにハエが飛んでいる、口の中に虫が居る…などと訴えます
対 応:
  ・幻覚の起きていない時間帯に口腔ケアを行うようにします
  ・口腔ケアを自分で行えない場合には、介助で行います

  妄想による
  その内容が、実際にはありえない不合理なものであるにもかかわらず、並々ならぬ確信をもって信じられている思考内容をいいます。理論的というより、感情的に信じられ、他人の説得や事実の提示によって、その内容を訂正することができない状態です3)。

行動の問題:
  ・口腔ケアの器具や、介助する人に対して、妄想的想像による拒否があります
  ・ひどいことをされる、いじめられている、などの発言をします
対 応:
  ・その人が過去に、口腔ケアに関して不快な経験がないか確認します
  ・介助する人を変えてみます
  ・使用器具を変えてみます
  ・気持ちが落ち着いている時間帯に口腔ケアを行うようにします
  ・口腔ケアを自分で行えない場合には、介助で行います

  攻撃性による
  相手に敵対し,傷つける目的をもった行動をいいます。攻撃はフラストレーションの結果から起こるとされています(J. Dollard:1900生,心理,米)3)。

行動の問題:
  ・介助を受け入れなくなります
  ・口腔ケアのために洗面台に行くことに拒否したり、介助されることに拒否します
  ・口腔ケアの介助者に殴りかかったり、唾を吐いたり、かみついたりします
対 応:
  ・介助する人を変えてみます
  ・本人が訴えたいことが伝わらないことが、殴るなどの暴力行為として表れている場合があるため、本人の希望をできるだけ汲み取るようにします
  ・本人の精神状態が安定している時間帯に口腔ケアを行うようにします

 
興奮による
  精神運動興奮は、精神的過程によって引き起こされた活発な運動性の興奮で、たえず動いていたいという、やみがたい欲求がある状態です。躁病興奮は、爽気分が中心で何かせずにはいられませんが、一応は、目的をもった行為です(行為心迫)。しかし、緊張病興奮では、不安緊迫によって行動しますが、了解はしがたく、唐突だったり、常同的だったりします(運動心迫)3)。

口腔ケア時の行動の問題:
  ・徘徊により、口腔ケアのための場所にじっとしていられません
  ・口腔ケアに集中できなくなります
対 応:
  ・口腔ケアが始まるまでは、十分に歩き回ってもらうようにします
  ・声かけや身振りによって、口腔ケアを始めるきっかけを作り、誘導します
  ・口腔ケアの間中は、その人にしっかりかかわる(放置しない)ようにします
  ・興奮が薬の副作用によるものかどうかチェックします